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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)7906号 判決

原告

東京食肉商業協同組合

被告

太田巳信

主文

被告は原告に対し、金拾壱万円及びこれに対する昭和二十八年九月二十七日より完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告、その一を被告の各負担とする。

本判決は、原告において、金弐万円の保証を供するときは、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

(一)  請求原因(イ)について

被告が、昭和二十三、四年当時、原告組合の専務理事であつたことは、当事者間に争いがない。そして成立に争いのない甲第一乃至第八号各証、証人天羽生信澄同石井透の各証言を綜合すれば、原告の請求原告(イ)の主張の通りの日時に、被告が原告組合の専務理事として、当時原告組合の経理課に勤務していた天羽生信澄に命じ、原告主張の通り八回にわたり、原皮組合に対する貸付名義で、原告組合の金員合計十一萬円を支出させ、原皮組合の庶務会計係石井透に交付させた事実が認められる。そして原告組合代表者本人尋問の結果により成立を認められる甲第十一号証即ち原告組合の定款第一条及び第七条によれば、組合員以外の者に対する貸付は、原告組合の目的の範囲外の行為であり、且つ同定款第八条及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原皮組合は原告組合の組合員ではないから、原皮組合に対する貸付が、専務理事である被告の職務権限に属しないことは明かである。そして右十一萬円の金員が回収不能に陥つたことは原告組合代表者本人尋問の結果により認められるから、原告組合は被告の右背任行為により同額の損害を蒙つたものである。

被告は、この点について、原皮組合の理事田中大次郎の伊古田市太郎に対する金二十萬円の貸金債権が担保に入つているから損害は発生していないと主張するが、証人田中大次郎同、伊古田市太郎同天羽生信澄の各証言によれば、被告は、甲第十号証(伊古田市太郎作成の田中大次郎宛の借用書即ち名刺)を、田中から預つて、取立委任のため天羽生個人に渡したに過ぎず原告組合に対し債権の譲渡又は入質の手続を取つたものとは認められないから、被告の右主張は肯認し難い。被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前記各証拠に対比し、措信しがたく、その他右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  請求原因(ロ)について。

証人伊古田市太郎、同田中大次郎の各証言及び原告組合代表者本人尋問の結果中には請求原因(ロ)の原告の主張に符合する供述があるが、右はいづれも、前記天羽生よりの直接又は間接の伝聞、及び原告組合の金庫内から甲第十号証伊古田の名刺が発見されたという事実を根拠とするものである。しかし、被告本人尋問の結果によれば、天羽生は、当時原告組合の金員三百五十六萬円の横領の容疑で取調を受けていたものと認められるので、天羽生がその追求に堪えかねて、その責任の一半を被告に転嫁したということは、充分考えられることであるから、前記伝聞の供述は容易に措信し難い。却つて、証人天羽生信澄の証言及び被告本人尋問の結果を綜合すれば、請求原因(ロ)の主張のように、被告が、天羽生に命じて金二十萬円を支出させて着服した事実はなく、甲第十号証の名刺は、被告が田中より預り、取立委任のため天羽生個人に渡したに過ぎないものであると認められる。その他請求原因(ロ)の主張を肯認せしむるに足る証拠はない。

(三)  結論

よつて原告の本訴請求中請求原因(イ)の損害金十一萬円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和二十八年九月二十七日より完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当であるから容認し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用について民事訴訟法第八十九条第九十二条を、仮執行の宣言について同法第百九十六条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 渡辺均)

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